Filmed by Takeyoshi Maruyama

日本最後の秘境といわれる
西表島の未来

日本という国には、世界に誇れるいくつもの世界遺産が存在する。自然遺産では屋久島や、文化遺産では富士山など、長き月日にわたってその形を人々の美しい記憶とともに残し続けてきた日本の象徴といえる。
地球が誇り、国が誇り、国民が誇り、そこに生きる生命が誇る。そんな自然遺産の価値とは一体なんだろうか。

“遺産”という言葉の意味を辿れば、「先人が遺した業績」とあり、先ず継承すること自体に価値がある。そしてもっと言及すれば、その遺産を前にしたときに我々が五感で感じることをできるだけそのまま後世に引き継ぐことで、生きる時代は違ったとしても100年後も同じ感覚を味わえるということに、きっと意義があるだろう。

2020年、新たに世界自然遺産としての登録候補地に検討されているのが奄美大島、徳之島、沖縄島北部、そして西表島の4つの地域。「東洋のガラパゴス」とも賞される西表島の自然と生物、そして自然との共生の中で育まれてきた生活文化は特異な輝きを放っている。

西表島は全体の約90%が森林に覆われ、アジア最大規模のマングローブ林など亜熱帯の大自然が広がっており、イリオモテヤマネコなどの固有種も多く生息している地域。そして、国の重要無形文化財に指定されている節祭(シチィ)は、農耕文化の新年に“みりく世(豊かな世)”の神を迎え、豊作・健康・繁栄の祈願祭として少なくとも300年以上続く歴史があると言われている。

そんな地球の誇りであるこの西表島が世界遺産に登録されることで、島の生態系に影響を及ぼす危機に直面するかもしれない。
現在、島民2400人に対し、観光客数は年間で約30万人。世界遺産に登録されるとその数は70万人にのぼるとも予想されるなかで、この島にそれだけの人が訪れるとどのような状態になってしまうのだろうか。このような"オーバーツーリズム"状態が続けば、本来の島の姿を守り続けることは困難になり、世界遺産としての価値を失ってしまうかもしれない。我々を含めた年間30万人の観光客が、意識を少しずつ変えていくことが求められている。
まずは、西表島の持つ課題を知ることから始めたい。

ISSUES IN IRIOMOTE

島全体と取り巻く漂着ゴミ問題
漂着ゴミ問題

いま、世界中で問題になっている海洋ごみ問題。ここ西表島も例外ではない。西表島の海岸に漂着するごみの量は年々増え続け、深刻な問題となっている。その9割以上がプラスチック製品で、これらはすべてをリサイクルに回すことができず、産業廃棄物扱いとなってしまう。現状は島民の熱心なビーチクリーン活動や、行政主導の回収事業によって最悪の事態を免れてはいるものの、ごみはすべて船で島外へ送られ処理されるというのが現状なのだ。
大量のごみ処理には当然のごとく膨大なコストが発生する。ビーチクリーンをしても、すぐにまた漂着してしまうサイクルが続いており、未だ解決には至っていない。

ヤマネコの個体数減少
ヤマネコの個体数減少

この島にしか生息しないイリオモテヤマネコの交通事故が後を絶たない。島の調査から、現在は約100頭しか生息しないといわれており、絶滅危惧種にも指定されている。2018年はそのうちの9頭が交通事故に遭い、6頭が命を落としていることがわかっているなかで、9件の事故はいずれも観光客の運転するレンタカーによるものであり、スピードの出し過ぎが主な原因とされているのだ。
また、この島の生態系のトップに位置するヤマネコが絶滅すると食物連載が崩れ、現在の島の姿を変えてしまう可能性があることも忘れてはならない。

ツアーガイドのルール不整備
一部のツアーガイドのマナー違反

“日本最後の秘境“と呼ばれるだけあって、山、川、海でのアウトドアアクティビティが活発で、島内をガイドする個人や団体はおよそ120にも及ぶ。島には民間の西表島エコツーリズム協会によってツアーガイドのガイドライン整備やエコツーリズムの啓蒙が行なわれているほか、カヌーやダイビング業者によって結成されている組合が、それぞれの自主ルールを定め、この稀有な自然を守るために取り組んでいる。
一方で、いずれの組織にも一部のマナーの伴わないガイドによって不本意な形で自然環境が侵されているケースも見られる。同行するツアーガイドは組織に属しているのか、十分な知識や技能を持ち合わせているのか、ルールを守っているのか、など私たち観光客にもガイドを見極めることが求められる。

GALLERY

SUPPORTING PROJECT

Us 4 IRIOMOTE イメージ

アウトドア・フットウェアブランドのKEENが主体となり、西表島の明日、そしてこの島を訪れるツーリストである私たち(Us)のためにできることをアクションしていくプロジェクト。西表島の今を生きる人々とともに、「知ろう」「守ろう」「話そう」「残そう」の4つを軸に環境と文化を守るために活動している。また、Us 4 IRIOMOTE基金を設立し、観光客にむけた「エシカル・ツーリズム」の啓蒙活動や、現地NPOに助成金を出しイリオモテヤマネコの交通事故防止や、地元住民向けの環境配慮プログラムのワークショップなども行う。2020年には「知ろう」「残そう」をテーマに、西表島を舞台にしたドキュメンタリー映画を公開予定。

Us 4 IRIOMOTE OFFICIAL SITE

2003年にカリフォルニア州で誕生したアウトドアシューズブランド。現在はオレゴン州ポートランド拠点に、創業当初からのサステイナブルな考え方で環境保護活動や被災地支援を続けている。日本では『Us 4 IRIOMOTE』の運営活動だけでなく、富士山の清掃活動への取り組みや被災地へ赴きシューズの提供や寄付活動にも取り組んでいる。『Us 4 IRIOMOTE』の活動では、KEENを代表するモデルのUNEEKからチャリティーモデルを発表し、売り上げの10%をプロジェクトに活用する。

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