「子どもたちに、自らの意志で環境を変える体験を」 NPO法人Learning for All 代表 李炯植氏インタビュー

REBIRTH PROJECTはEASTPAKとコラボレーションしSTREET SMARTをコンセプトにしたバックをプロデュースした。企画では売上金の一部を日本の教育の直接的な底上げを願い、子どもたちの学びと育ちを支えるNPO法人Learning for All に寄付する。主に経済的な困難を抱えた子どもたちへの「100時間分の勉強時間」に相当する金額を支援する。

NPO法人Learning for All (以下、LFA  )は子どもの貧困問題の本質的な解決を目指して、生活保護世帯の子どもたちや、その他困難な状況にある子どもたちへの無償の学習支援や居場所支援を行う団体だ。日本の子どもの貧困の現状は一体どうなっているのだろうか。LFA はどのような理念を持ち活動を続けてきたのか。LFA 代表を務める李炯植(りひょんしぎ)氏に話を聞いた。

(提供:Learning for All )

 

7人に1人の子どもが貧困状態にある

 

今日の日本では子どもの7人に1人が「貧困」状態にあるという。「貧困」状態とは親子2人世帯の場合、月約14万円以下で暮らしている子どもたちの状態をさす。この金額では最低限の食住を満たすことができても、子どもの教育や習い事のような将来への投資を十分にすることはできない。こうした状態にある子どもたちが抱えている困難は、経済的な基盤がないことだけではない。経済的基盤に加えて、家族や学校以外の大人・コミュニティとの「つながり」、一人ひとりにあった「学びの環境」、正しい生活習慣や遊びの経験を得る「育まれる環境」をも喪失しやすくなる傾向にある。このような困難を放置すると、子どもたちが大人になったときに貧困状態に陥りやすくなり、次世代の子どもの貧困を再生産してしまうことになる。

 

 

(資料提供:Learning for All )

 

すべての子どもたちに、学習機会と豊かな経験を

 

LFA は「子どもの貧困に、本質的解決を。」をミッションに掲げ、学習遅滞を抱える子どもたちに無償で勉強を教える学習支援、子どもたちが豊かな経験や体験をできる居場所支援を実施している。2010年から延べ7000人の子どもたちを支援してきた。

私たちは困難を抱えた子どもたちへの包括的支援モデルづくりをしています。学力をあげようという机上の学習を支援するだけではなくて、子どもが自立するための力を育む経験や体験といった面も含めてサポートしています。

ご飯をちゃんと食べられていない、歯磨きをしたことがないクリスマスプレゼントをもらったことがないなど、安心・安全に過ごせる場所が学校にも家にもない子どもたちに、「つながり・学び・育ち」の3つの環境を包括的に整備しています。

学内外で複数の拠点を展開し、6歳~18歳までの子どもたちに切れ目のない支援を提供しています。さらに、これまで実施してきたノウハウを全国の団体や自治体に展開する取組みもはじめました。

 

(資料提供:Learning for All )

 

若干28歳にして法人の代表を務め事業を拡大してきた李氏。彼自身、貧困率が高い地域で育った経験から、格差や貧困問題に意識を持つようになった。当時の強い問題意識と、活動を始めてからの悔しさがこれまでの精力的な活動を支える胆力になったという。

もともと貧困地域の育ちでした。経済的理由で夢を諦めていく周りの友人たちを見ていて、日本の格差や貧困に強い問題意識をもっていました。東大に入り、自分や自分の生まれ育った街と、大学の友人の生きてきた環境の違いに衝撃を受けました。同じ日本で生きているのに、こんなにも世界が違うのかと。また、学習支援の活動をする中で、生活保護世帯の子どもや、学習遅滞がある子どもを支援してきた中で「支援が遅すぎた」と思うこともありました。早期から切れ目なく支援することが重要だけれど、そうできなかったという失敗体験や、子どもたちに向き合う中でのやりきれなさやもどかしさ、くやしい思いを次の事業に繋げています。

 

LFA が提供する学習支援では、大学生のボランティアたちが子どもたちの学習をサポートしている。李氏自身も初めはLFA の前身団体「Teach For Japan」の一人のボランティアだった。今回REBIRTHが支援する「100時間分」の寄付金は、ボランティアをする学生たちの交通費や研修費等に充てられる。

LFA では大学生ボランティアに対して、独自開発した約30時間の研修を行います。例えば、子どもの貧困とは何か、教室にはどのような子どもがいるのかなど、私たちが向き合う課題に対して理解を促す研修です。今回いただく寄付金も彼らへの研修費や交通費支給など、直接的な子どもの学習支援活動費用に充当させてもらいます。

 

(資料提供:Learning for All )

 

遊びと教育

 

今企画のテーマでもある「STREET SMART」についても所感を聞いた。STREET SMARTは「勉強で得た知識ではない、都市環境で生きるために必要な鋭い臨機応変さ」を表す概念だ。李氏は子どもの自立を促し五感を刺激する、教室を飛び出しての遊びにも大きな意味があると話す。

主体的な学びが重要になってきていると思います。教科書やテキストだけでなく、普段の体験や遊びにも学べることは多くあります。

「遊び」は決められて行うもののではなく、五感と自由な意志を持って取り組み、自分の責任で探求し何かに没入するもの。ゲームをする、絵を描く、走る、何でも遊びになると思っています。

自律的な活動を通して、早い段階で「自分の手で環境は変えることができる!」という、成功体験を持つことが大事だと思います。そうした経験学習こそが一番深い学びを与えてくれる。五感を使い、自由に自分自身の意志・責任で、遊んで探求してほしいです。

 

アートは分断された社会をつなぎ直す

 

さらに李氏はアートやクリエイティビティの領域が、より多くの人を社会課題の解決に巻き込む上で重要になると考えている。近年、町をあげての芸術教育で知られるイタリアのレッジョ・エミリアが再び注目を集めるなど、アートを活用した教育活動も広がっている。李氏は「分断された社会をつなぎ直す」手段としてのアートに注目するという。

社会課題をアートやクリエイティブの力で解決するというのは、いろいろな人が繋がれるきっかけになる上で重要だと思っています。そもそも社会課題に関心のない人や、日常生活の中でそういった問題に出会わない方もいます。NPO活動を知る機会のない方もいます。そういった方も、社会課題と関連するアートが「いいな」「かっこいいな」と思えるような、目を引くものであれば、興味を持って問題を知るきっかけになっていくのではと。そうやって、アートは分断された社会をつなぎ直す役割を持っていると思っています。

また、子どもたちと一緒に何かを作る体験活動も、子どもの発達においてはすごく重要です。施設の入り口にみんなで絵を描いたりして、自分たちの居場所を自分たちで作っていくことで、帰属意識も高まります。私たちの団体にもそういった活動をどんどん取り入れていきたいですね。

 

失敗体験をも次の活動の力に変え「子どもの貧困に本質的解決を」というミッションに向かって、まっすぐに突き進む李氏。その瞳に迷いはない。今年1月にはゴールドマン・サックス日本法人から今後3年間で計4億円の資金調達を達成した。困難を抱えた子どもたちへの包括的な支援をモデル化し、子どもが守られるエコシステムをつくる。明確なゴールに向かい事業を展開するLFAの今後の活動と影響力はいっそう広がっていきそうだ。

 

 

 

 

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