「やりたかったことより、やり続けてこられたことに価値がある」 STREET SMARTを地で生きる 画家・アーティスト 柏原晋平氏 インタビュー後編

REBIRTH PROJECTはEASTPAKとコラボレーションし、「日本」 と「教育」をテーマに、STREET SMARTをコンセプトにしたバックをプロデュースした。バック背面の写楽をモチーフにしたイラス トは、水墨画や洋画材を使った独自の作風で知られるアーティスト・画家、柏原晋平氏の作品だ。

前編のインタビューでは柏原氏に、EASTPAKとのコラボレーション企画の作品について語ってもらった。後編は氏自身の人となりにフォーカスを当てる。柏原氏は18歳の時に筆を持ち、以来20年以上絵を描き続けてきた。独学で水墨画を学び、画壇や派閥に属さず、既存のあり方に囚われない。独特の感性を放ち続ける、まさに STREET SMARTな彼の生き方に迫った。

 

画家・アーティスト 柏原晋平氏

ウッドベースが引っかかったので

ーーー18歳から絵を描き始め、以来創作活動を続けられていますが始めたきっかけは?

たまたまですね。音楽バンドやってたんですけと、ベース弾いてて途中からウッ ドベースを。ある日、吉祥寺の改札をドラムやボーカルが改札をすんっと入っていく。ウッドベースだけつっかえて、こう(手を伸ばしながら)「みんなっ… 」て言う前にみんなの背中が割と遠くにいって、「あっ、辞めよう」って思った(笑)。 それがきっかけ。 音楽辞めようって思った。そのとき、みんなに俺は付いてけな いって思った。みんなディズニーランド行ったことあるし。俺、彼女もいないしってすねちゃって。で、彼女もいないし、寂しいし、改札つっかえるし。家帰って、水墨画を練習し始めたの が18、19とかのとき。

文房具屋さんの凧和紙

たまたま近所の文房具屋さんに、凧和紙っていう凧を作る用の 和紙があって、それが固くて丈夫で、ちょっとした強引なこと を書いても破れないんですよ。(買ったことを)間違えた あ、、、って(笑)。
たまたま安かったからかな。その和紙と墨汁を買って 龍の絵を描いたら、「おっいんじゃない?」って。あんがいいんじゃない?って勘違いしちゃったんですよね。 で、25、6までは音楽やったりもしてましたけれど、絵はずっ と続けて、練習して、練習して。 あいつらが飲んでる間、俺は飲めないから練習練習って。 独学で。「やさしい水墨画入門」っていう本とか、「猿でもわかるなんとか」とか読んで、しかもほぼ立ち読み状態で。

 

10代から絵を描き続けてきた

 

筆一本の中で起る現象にハマった

ふーんって本読んで家帰って。 それで一本の筆の穂先に、水と墨だけで3色くらいつけるんで す。先の部分に墨をつけて、内側に水を付けると、その中間がグラデーションになる。それを和紙に押し付けながら引くと、グラデーションで竹が描けちゃう、みたいな。一本の筆でおきるその現象の細かさとか、鼬(いたち)の毛だったり、ウサギの毛だったりいろいろあるけど、変態っぽいじゃないですか。行為そのものが。一回の線でどれだけの表現かますか、とか。きもちわるっみたいな、それにハマっちゃった (笑)。

やりたかったことより やり続けてこられたことに価値がある

ーーーそれから20年以上、ずっと画を描き続けられている?

そうですね。20代はまだそんなに仕事がもらえなかったから、アルバイトし たり、一瞬デザイン会社に入ったりもしてたけど。30くらいで独立して。
単純に何が動機で始めたかは置いておいて、やりたいこと、やれること、いろんなことを人生で触れるじゃないですか。僕だったら20代の頃はアルバイトでラーメン屋とか、窓ふきとか、大道具とかいろいろ触れた。

人生で、現時点において、何が残っているかが重要であって。これが残っていてくれてありがとう、今自分がこのお仕事をしているけれど、来週再来週一年後にはまったく変わっているかもしれないし。わからないけれど、やりたかったことよりも、やり続けてこられたことのほうが価値がある気がする。続けることに意義があるっていう。 それを無理強いして続ける必要もないし。今自分が、自分のフィルターを通して一番入ってきたそれを貫ければいいんじゃないって。はじめた理由なんてなんだっていい。

 

なりたいようになりますけどって

ーーー最近の夢を持てとか、キャリアプランを描けっていう教育についてはどう思う?

そういうのは最悪だよね(笑)。

ーーー苦しむ人もいると思いますね

僕、2、30代の頃、いや今でもとある重鎮に呼び出されてひた すらディスられたりする。お前は、どうなりたいんだ?って説教。ああ、どうなりたいんだって言われても、なりたいようになりますけどって。
なんかもう、好きなことをいっぱいやってさ、なんか一個はまればいんじゃない、くらい。好きなこともなかったらじゃあ何にもしなくていんじゃないのって。

 

柏原氏は独学で絵を始めた

人に貰ったものなんて絶対続かない

ーーー美大など、正規の美術教育を受けられていない柏原さんが、あえてこれからの教育を考えるとしたら?若いアーティストたちへのメッセージはありますか?

今の子たちがどういう教育を受けているのかわからないので正確なことは言えないけれど、与えてもしょうがないと思うんで すよね。
道具とか、与えて好きにやんなさいも違うし。 たぶん、物理的な物より、それ以上にそれぞれの心をもう少し柔らかくフラットに。それぞれの人の目とか気にするばっかりじゃなくて。自分で自分を見つめる機会が増えれば欲しい道具はお金貯めてでも買う。やりたいことなんか自分で調べる。人に貰ったものなんか絶対続かないじゃないですか。自分でないと。ただなかには、素晴らしい人生の師匠がいたりもする。そういう人はジャンルは違えど自分の中に何か残してくれる。

いいね、いいねの言い合いはすごい気持ち悪い

若手で20代前半の仲良いアーティストには早く追い抜いてくれ、お前らに負けねえぞとかはないけれど、ちょっとしたエキセントリックな戦いは欲しいなって思う。いいね、いいねって言い合うのってすごい気持ち悪い。お前の絵は全然つまんねって言ってくれるぐらいになったら負けを認めちゃう。

世代は違えど、今生きてるだれか、先輩だろうが後輩だろうがその子達に言えることは何もありません。いう必要もない、偉そうな。自分のことでせいいっぱい。自分が飲み代稼ぐだけでもね(笑)。

仕事のほとんどは飲みの席の繋がりから

酔いつぎながら

ーーー日本のビジネス、アート界に対してはどう思う?

それも好きにしてくれ。僕も好きにしますからって。 日本の美術・芸術業界、一切関わりないですからね。 それぞれと個人で関わっているだけで業界のしくみには関わっ てない。完全に個人の繋がりで飲み友なだけ。これだ!このビールのタイトルと同じですよ(ヨイツギ ビールを飲みながら)。 酔いつぎながらお互いのやりたいこととか、マッチングとかガッチングして、仕事してる。マッチングもガッチングも一緒か (笑)。

殴るより、殴られる人になれ

みんな自分のやりたいことをやったらいいと思う。 人から言われるのは好きですけどね。僕の尊敬する年下のバー テンダーが言ってたんですけど、「殴るより、殴られる人になれ」っていう。おお、すげえわって。

すごい素敵なことだなあと思う。人に言うより、言われる人間になれっていう。言われ続けたら、もっと伸びしろでやるし、気にしちゃうしやっぱり。言われる以上に、完璧ってありえない。何か伝えられるとしたらこの言葉ですかね。

 

柏原晋平●画家・アーティスト。1978年生まれ。高校卒業後、舞台美術やデザイン会社な ど、様々な仕事に従事し ながら絵画、水墨画を独学で習得する。2002年頃より本格的に 作家活動を開始し、画壇や派閥に属さず画家・デザイナーとして数々の仕事を手掛ける。水墨画を軸にアクリルガッシュ、ペンキ等を使った絵画作品の制作からミュージ シャンとのライブパフォーマンス、テキスタイル図案、ロゴデザイン、アートディレクションに至 るまでその表現媒体は多岐にわたる。西洋と東洋の画材や技法、感覚を混在させた独創 的なタッチで異彩を放つその作品は各方面で高い評価を受けている。
京都・本能寺 塔頭龍雲院への襖絵奉納をはじめ、中村獅童×初音ミクの共演でも 話題となった超歌舞伎「今昔饗宴千本桜」、早乙女太一「影絵」、GACKT主演舞台など、様々な著名人への作画提供や企業とのコラボレーションなど制作している実力派アーティスト。

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