はじめまして。
私、福祉施設に所属するアーティストが描くアート作品をプロダクトに落とし込み、社会に提案するプロジェクト「MUKU」の代表を務める松田崇弥(マツダ・タカヤ / 26歳 / 双子の弟)と申します。
今回、私が知的障害のあるアーティストが描くアート作品に興味を抱いた理由、そして、彼等の創作活動の魅力について紹介できればと思います。
本連載を通じて、彼等の創作活動の魅力、そしてパワーを知っていただく機会になれば幸いです。
知的障害は、庇護対象でも同情されるべき対象でもない
彼は自閉症という先天性の障害と共にこの世に生れてきました。
彼は笑い、哀しみ、怒り、そして、涙を流します。あえて世間一般のカテゴライズに当てはめるとするならば、”健常者”と同じ感情を抱きながら、1日1日を普通に過ごしています。
翔太のことを馬鹿にする人、同情する人、多くの世間の目は私を混乱させていました。
まず、私は声を大にして言いたい。
私たち双子と日々言葉遊びに興じる兄は、決して不幸な人間ではありません。庇護対象でも、同情されるべき対象でもない、ただの人間の一人です。
こだわりや脅威的な集中力が、作品の鮮やかな魅力を支える柱となる
東京の企画会社に就職して2年が過ぎた頃、岩手県の実家に帰省していた私は、社会福祉法人光林会が運営するアート活動を推進する福祉施設「るんびにい美術館」を訪れる機会がありました。
それはまさに、人生の分岐点となる瞬間でした。
アートを目の当たりにした瞬間を一言で表現すると、「超ヤバい」です。
天才であると、本気で思いました。
私はそれまで、全ての創造は模倣から出発すると思っていたのです。
しかし、そこには確かに一人一人のオリジナルがありました。
革新、自由、そして、クレイジー。彼等がキャンバスに投影する創造の世界の虜になった瞬間です。
そして私はこう理解しました。
自閉症やダウン症などの障害の特徴でもある「こだわり」や脅威的な集中力が、アートの表現において発揮されるとき、作品の鮮やかな魅力を支える柱になるのだと。
その瞬間、強烈なアイデンティティが投影されたアート作品を、社会に向けてプレゼンテーションしようと心に決めたのです。
人に披露して初めて、才能は、才能になる。
知的障害のある方々が作りだす創作表現は、アール・ブリュット、アウトサイダーアート、エイブルアート等々、様々なしがらみ、政治的活動もありながら、多くのカテゴライズが存在します。
そして、彼等の創作活動を何と表現するべきなのか?福祉業界内でのみ、多くの議論が巻き起こっているのです。
私は正直、呼称・枠組はどうでも良いと思う派の人間です。
彼等の作品を何と呼ぶべきか、カテゴライズを議論することに時間を費やすよりも、彼等の天才的な創作の魅力が福祉施設内で眠っていることの方が、遥かに勿体無い。
私は、人に披露して初めて、才能は、才能になると思っています。
見せないと何も始まらない。
だからこそ、どのような表現をすることでアートが社会に浸透していくのか、私達は表現方法を日々模索し、持ちうる知見の全てを使い、最高品質のプロダクトに乗せて商品を創造しているのです。
「福祉」の柔らかいイメージを逸脱するリスクを冒す
私たちは、福祉業界内で話題のプロジェクトになる気はありません。
福祉×ヒップホップ、福祉×老舗メーカー、福祉×広告。
MUKUの本質的価値は、未知と未知のコンテンツを掛け合わせることで、世間一般が抱く柔らかいイメージを逸脱するリスクを冒すことなのかもしれません。
なにより危険なことは、賛否両論なにも生まれることのない無難なプロダクト・プロジェクトであると私たちは信じています。
これからも、イノベーターとしての気概を胸に、仲間たちと共に挑戦を続けていきます。
(後編へ続く)
株式会社ヘラルボニー | 代表 松田崇弥
1991年5月8日生まれ。岩手県出身。双子の弟。東北芸術工科大学 企画構想学科卒。小山薫堂率いる企画会社、オレンジ・アンド・パートナーズのプランナーを経て独立。異彩を、放て。をミッションに掲げる福祉実験ユニット「株式会社ヘラルボニー」代表取締役社長。知的障害のあるアーティストが描くアート作品をプロダクト化するプロジェクト「MUKU」、同アートを建設現場に落とし込む「全日本仮囲いアートプロジェクト」、100年後の言語を考案する「未来言語」等々、福祉領域の拡張をテーマに実験を繰り返す、アソブ、フクシな会社です。